未払い残業代問題とは

企業・ 法人は、法律上、原則として、労働者を1日に8時間、1週間に40時間(休憩時間をのぞく)を超えて労働させてはならないことになっています。
これを法定労働時間と言います。
法定労働時間を超えた場合は、時間外労働となり、企業・法人は、労働者に対し、通常の賃金よりも割増しした残業代を支払う義務があります。
深夜労働(※1)、休日労働(※2)についても、通常の賃金よりも割増しした残業代を支払う必要があります。

※1 深夜労働とは、午後10時から午前5時までに労働することを言います。

※2 企業・法人は、法律上、原則として、労働者に対し、1週間に1日以上または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないことになっています。これを法定休日といいます。 休日労働とは、法定休日に労働することを言います。

すべての企業・法人に当てはまるわけではありませんが、人件費抑制のため、あるいは、管理監督者(後述)にあたらない労働者を管理監督者と扱うなどして、本来ならば支払われなければならない残業代が支払われていないケースがあり、近年問題となっています。
いわゆるサービス残業、名ばかり管理職などと呼ばれるものです。

また、給料が年俸制だからとか、営業手当などを出しているからなどという理由で、残業代が支払われないケースもありますが、これらは、法律上、残業代を支払わなくてもよい理由にはならないことに注意しなくてはなりません。

未払いの残業代があると認められてしまうと、①最大で過去3年分の未払いの残業代をまとめて支払わなければいけなくなる、②訴訟(裁判)や労働審判を起こされ、付加金や遅延損害金といったペナルティを課せられ、より多額の残業代を支払わなければいけなくなる、③労働基準監督署からの調査が入り、全労働者に対して、残業代を支払うように指導・勧告される可能性が出てくる、といった事態が想定されます。
そのため、未払い残業代問題は、企業・法人にとって、非常に大きなリスクを伴うこととなります。

未払い残業代問題の原因

未払い残業代問題は、ある日労働者から残業代を請求されることで顕在化することがほとんどです。
そのような未払い残業代が生じる原因としては様々なものが考えられます。
例えば、企業の体制としてそもそも残業代を払っていない場合。
企業側が適切な労働時間の管理を行っておらず、労働者の正確な労働時間が把握できていない場合。
15分や30分に満たない時間外労働を切り捨てている場合。
タイムカードを切らせた後でいわゆるサービス残業を行わせている場合。
管理職や年俸制であることを理由に残業代を払っていないような場合。

このような場合であれば、ほとんどの場合、残業代を支払わなければいけないことが多いかと思います。
そのため、どのような場合に残業代を支払わなければいけないのかをきちんと把握したうえで、適切に対応することが必要となってきます。

残業代の計算

時間外労働、深夜労働、休日労働に対する残業代は、通常の賃金よりも割増しとなります。
割増率は、次のとおりです。
「時間外労働+深夜労働」、あるいは、「深夜労働+休日労働」と重複すれば、重ねての割増しとなります。

労働の種類 割合率
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) 25%
深夜労働(午後10時から午前5時までに労働した場合) 25%
休日労働(法定休日に労働した場合) 35%
時間外労働+深夜労働 50%(25%+25%)
深夜労働+休日労働 60%(25%+35%)

 
※「時間外労働+休日労働」という組み合わせはありません。休日労働はそもそも労働日ではない日に労働するものであるため、時間外という概念が適用されないからです。

例えば、勤務時間が午前9時から午後6時までの休憩時間1時間をのぞく8時間、基本給が1か月20万円、出勤日が1か月20日とされる労働者が、実際には午前9時から午後10時までの休憩時間1時間をのぞく12時間労働した場合の残業代を計算します。

この労働者の残業代を計算する基礎となる時給は、20万円÷(8時間×20日)により、1250円となります。

1か月の残業代は、残業が1日4時間ですから、時給1250円×1.25(割増率25%)×4時間×20日により、12万5000円となります。
これが1年間だと150万円、3年間だと450万円もの残業代となります。

労働時間の管理の必要

労働時間とは

企業・法人側において、何が労働時間なのかを把握していないために、未払い残業代問題が発生することもあります。
労働時間だとは認識していなかったものが、後になって労働時間に当たると判断されてしまい、結果的に未払い残業代があるとされてしまうことがあり得ます。
そのため、何が労働時間に当たるのかをきちんと把握しておく必要があります。

労働時間とは、始業から終業までの使用者の監督下にある時間のうち、休憩時間を除いた時間のことを言います。
例えば、通勤時間は基本的には労働時間に当たりませんが、事業所内で会社指定の制服や作業着への着替えに要する時間は労働時間に当たると判断されるでしょう。
また、持ち帰り残業も、通常の勤務時間では処理しきれない業務量を与えた場合や、持ち帰り残業の常態化を上司が把握・黙認していた場合には、事実上の指示があったものとして、労働時間に当たると判断されてしまいます。

労働時間の管理

企業・法人が、きちんと労働者の労働時間を把握し管理していないために、未払い残業代問題が生じてしまうことが多くあります。
もとより、企業・法人側には、法令上、適切に労働者の労働時間を把握し管理することが義務付けられております。
また、適切な労働時間の把握や管理ができていなかった場合、労働者が作成したメモ等をもとに、実際の労働時間を超える労働時間が認定されてしまうなど、未払い残業代を請求されたときのリスクが高まってしまいます。
そのため、未払い残業代問題を起こさないためにも、適切に労働時間を把握して管理したうえで、そのことをきちんと記録として残しておくことが必要となってきます。
実際には、タイムカードや勤怠管理システムを利用するなどして実際の労働日ごとの始業・就業時刻を記録して管理することが必要でしょう。

残業代の支払いが不要な場合

法律上、残業代の支払いが不要な場合や制度がいくつかあります。

管理監督者である場合

管理監督者に当たる場合には、基本的には、残業代を支払う必要がありません。
管理監督者とは、労働条件の決定などの労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を言うとされており、肩書きにとらわれず、実態から判断すべきであるとされます。
その具体的な判断要素は、a.職務の内容、権限と責任の程度、b.出退勤、労働時間の自由度、c.賃金面の待遇などです。

すなわち、管理監督者と認められるためには、①経営者と一体的立場にあると言えるほどの重要な権限と責任を持っていること、②勤務時間について自由裁量を持つこと、③使用者に等しいほどの地位にふさわしい処遇を与えられていることが必要とされ、そのハードルは非常に高いです。

形式上は「部長」、「店長」、「工場長」などという肩書きであっても、実態から判断すれば、管理監督者に当たらないということも十分にあり得ます。
実態は管理監督者に当たらないにもかかわらず、管理監督者として扱われ、残業代が支払われないというのが、いわゆる名ばかり管理職の問題なのです。
また、仮に管理監督者に該当するとしても、深夜労働に対する割増賃金は支払わなければいけない点にも注意が必要です。

事業所外労働のみなし労働時間制

営業職など事業所外の外回りが多い労働者について、企業・法人がその労働者の労働時間を把握することが困難な場合、就業規則に「1日に○時間労働したものとみなす」と定められている場合があります。

仮に、「1日に8時間労働したものとみなす」と定められていれば、営業職が実際は10時間外回りの営業をしたとしても、その2時間は残業とならず、残業代が発生しません。
もっとも、a.事業所外での労働に、事業主または労働時間を管理する者が同行している場合、b.携帯電話などで常に連絡をとり、上司の指示を受けている場合、c.会社から具体的な指示を受け、その指示どおりに働いている場合、d.事業所に戻って仕事を続行した場合には、残業代が発生します。

なお、労使協定によって労働時間を決めた場合は、労働基準監督署への届出が必要となります。
ただし、協定で定めた時間が法定労働時間(8時間/日)以下である場合には、届出は必要ありません。

裁量労働のみなし労働時間制

研究職やデザイナーなど、労働者が裁量を持って業務を行っているため、実労働時間による管理になじみにくい場合には、一定の要件のもと、労働時間の算定に当たっては実労働時間によるのではなく、みなし労働時間によって行うことが認められます。
仮に、「1日に10時間労働したものとみなす」と定められていれば、研究職が実際は12時間研究開発に従事したとしても、残業代は2時間分しか発生しません。

この制度を利用するためには、労使協定で必要事項を定め、労働基準監督署に届出を行ったうえで、就業規則や労働協約で規定を整えることが必要です。

変形労働時間制

変形労働時間制とは、1か月単位などの一定の期間において、週あたりの労働時間の平均が週の法定労働時間の枠内に収まっていること等を条件に、法律上の労働時間の規制を、1週及び1日単位ではなく、週あたりの平均労働時間によって適用することを認めるものです。

変形労働時間制を導入するためには、会社側は、労使協定や就業規則で必要事項を定めたうえで、労働基準監督署に届出を行う必要があります。

固定残業代(定額残業代・みなし残業代)

固定残業代とは、実際の労働時間から計算される残業代に代えて、定額の手当を支払うことや、基本給の中に定額の手当を組み込んで支払うこと等の手法により、残業代の支払いを免れるものを言います。
例えば、雇用契約書を交わす際に、基本給に一定時間分の残業代を含む形となっていれば、その時間までの残業については、残業代を支払う必要はありません。
もっとも、その一定時間を超える残業が行われた場合には、その分の残業代を支払う必要があります。

固定残業代として認められるためには、①固定残業代の内容を労働契約や就業規則等で定めていること、②固定残業代に該当する部分を明確に区別していること、③固定残業代に当たる部分が残業代の法定計算額以上であることが必要であるとされています。
そのため、固定残業代が認められるハードルも高いものと言えます。

1週間に1日の休日が確保されている場合

法定休日以外にもう1日休日が確保されている場合は、法定休日以外の休日に労働しても、休日労働ではなく、時間外労働となります。
例えば、土日を休日とする週休2日制をとり、日曜日を法定休日とする企業・法人の場合、仮に土曜日に労働しても、休日労働にはあたらないので、休日労働の35%割増しではなく、時間外労働の25%割増しが適用されます。

時効

未払い残業代は、3年間請求を行わなければ、時効により請求できなくなります。
すなわち、支払う必要がある未払い残業代は、請求時から遡って2年分です。
それでも、「残業代の計算」の項で説明したとおり、3年分の残業代となれば、かなりの金額にのぼることが少なくありません。

未払い残業代をめぐる紛争の解決方法・手続

未払い残業代をめぐる紛争が発生した場合に、それを解決するための手続は、交渉、訴訟(裁判)、労働審判などがあります。
詳しくは、「●労務問題(紛争)の解決方法・手続について」のページを参照ください。

【ご相談ください】
未払い残業代問題が発生してしまうと非常に大きなリスクとなりますので、企業・法人としてはきちんと予防策を講じることが必要です。
もっとも、実際に残業代を請求されてしまい、本当に残業代を支払わなければいけないのか、どれくらいの額を支払わなければいけないのかが分からない、あるいは、固定残業代などの制度を活用したいがどうすればよいのかが分からないといったことでお悩みになることもあろうかと思います。
未払い残業代問題に関してお悩みの方は、お気軽に八戸シティ法律事務所にご相談いただければと存じます。

(ご注意)

八戸シティ法律事務所では、労務問題については企業・法人側のサポートに注力しているため、労働者側からの労務問題に関する相談・依頼は原則としてお受けしておりません。
ただし、労働災害(労災)の問題に関しては、労働者の人身傷害という重大な結果を伴う事案であり、他の労務問題と比較して労働者側のサポートの必要性が高いと考えていることから、企業・法人側、労働者側とも相談・依頼をお受けいたします。

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